UANAMAS LabelがMQAコーディングをなぜリリースするのか?
By Mick Sawaguchi C.E.O UNAMAS Label
UNAMAS LabelがMQAコーディングのアルバムもなぜリリースしているのか?あれはハイレゾなのか?といったことについて市場では、多くの議論が出ています。ここでは私がハイレゾ音楽制作者という視点から「MQAの持つ特徴」について述べます。MQAの開発を行ったBob Stuartは、音楽とデジタル・テクノロジーについて永年研究開発を行い、DVD-AUDIOでのロスレス・コーディング技術であるMLPというコーディングを開発し、その技術は、現在Dolby TrueHDへ継承されています。AESのフェローメンバーでもあり永年の真摯な開発と音楽を愛する姿勢に深く共感する一人です。
そのBobがMQA(Master Quality Authenticated)というコーディングを開発し日本でもそのデモがSONAスタジオで行われたのが2015年だったと思います。
UNAMASのマスター音源を持参し、その場でBobがMQAにコーディングしてオリジナルとMQAデコード音を比較再生してくれました。いわゆるA-Bテストと呼ぶ評価方法です。その時私が評価したのは、音の立ち上がりが正確で音場に滲みがない点でした。特にパルス成分が多い楽器では、その効果がとても顕著でしたので、Bobに「インパルス・レスポンスがとてもいいですね」とコメントした覚えがあります。
その後、幾つかサンプル音源をイギリスに送り、エンコードされた48KHz-24bit FLACファイル音源を私のスタジオでFoober2000-MQA-デコード機能のついたMeridian Prime Headphone AMP経由で再生し評価を行いました。「少し低域が薄くなる傾向があるけどオリジナル・マスターを再現している」というのが印象で、何より転送レートを見ると約1Mbpsという低い転送レートでありながらデコードすると192-24のマスターが再現できる点に大きなメリットを感じ、UNAMAS LabelのMQA化を決めました。
こうした経緯をこれまで彼が発表した資料を引用しながらから解説してみます。
我々日本人は、「聞いてよかった!ではなくその理屈を納得しないと新技術を受け入れないというハード指向民族ですので」
MQAのメリットを私なりにあげれば以下のようになります。
1インパルス・レスポンスの再現が良い(これが私の感じるまさにStudio Quality品質保証です)
2低転送レートで配信でき、デコードすればオリジナルのマスター音声が再現
3既存のパッケージメディア(CDなど)をシステム変更なしで実現
1インパルス・レスポンスが良いという技術背景とは?
Bobが技術解説で使うスライドを引用しながらこの点について述べてみます。
まず現在のデジタル・レコーディングから、最終的なエンド・ユーザーの持つ機器までの信号の流れをBobは、分析しデジタル領域であると言ってもその途中の様々なプロセスで信号が変形していることを確かめています。
これまでもD-Dコンバータやマスタークロック供給、様々なジッター低減といったアプローチで途中の信号は、改善されていますが、MQAは、上流に遡って一番基本となるレコーディング時に使用したA/Dコンバータが持つ時間軸信号構成と同じ信号をMQA-デコーダによって補完・修正しエンド・ユーザーの地点でレコーディング時のA/D変換を再現するというのが大きな特徴です。MQAではこれをDe-BlurとかDe-Bleedingと呼んでいます。このためには、音楽制作レーベルやエンジニアから使用したDAWやA/Dコンバータの情報をもらって分析しておかなければなりません。UNAMAS Labelでもエンコードを依頼するときに必ず使用したDAWやA/Dコンバータの機種を付記し、さらにFINAL MIX前の源データ(RAW DATA)のサンプルを提供します。このことでA/Dコンバータとオリジナル録音時のデジタル信号の構成を分析しメタデータ化してMQAエンコードしたFLACが作成されます。こうした手間を面倒に思ったり、何かノウハウが盗まれるのではないか?といった危惧を持つレーベルやメーカだとこの仕組みは、成立しません。
ポイントは、A/D変換時の時間軸情報をMQAエンコード時にメタデータとして取り込みMQAデコード時に同じタイミングでD/Aする仕組みを形成していることになります。なぜインパルス・レスポンスの応答性能が音楽では、大切なのか?これについてもBobは、「これまでハイレゾで追及してきたのは、ハイサンプリングによる周波数領域の拡大でした。しかし音楽成分を分析すると三角図形の分布になっていることがわかります。
サンプリング周波数を上げることで周波数領域ではなくA/D変換時のインパルス応答特性やプリエコー・ポストエコーといった時間の滲みを結果的に改善しているのです。」と述べています。我々の聴覚検知は、インパルス・レスポンス5μsecまでを検知できるそうです。
2 低転送レートのメリット
データが大きいとダウンロードに時間がかかります。ストリーミング配信では、音の途切れは、デメリットになりますのでMP-3や転送レー128kbps-256kbpsといったデータで扱うのが一般的です。現在のネットワーク環境では、1Mbpsの転送レートは、大変利にかなった高速高品質伝送と言え、MQAの48KHz-24bitエンコード・データは、ストレスなく、かつデコードすればマスターのデータが高品質に再現できる点が大きなメリットです。2017年春にLiveストリーミング音楽でMQAコーディングした音楽を聴く機会がありましたがストリーミングから192-24のサウンドが再生されるのにとても感動しました。
3 既存パッケージメディアとの融合
MQAのコーディング技術は、「AUDIO ORIGAMI」と呼ばれています。
マスターのデータを1回・2回と折り返して最少では44.1-16の領域へ畳み込むという技術です。この技術をCDに応用すれば既存のCDの中にハイレゾ・マスター音源が収納でき既存CDで再生もでき、MQAデコーダを経由すればマスター音源が再現できるというわけです。(CDのRED BOOK規格に適合するためにマスター音源のサンプリング周波数は、44.1KHの倍数でなくてはなりません)
「Old Bottle New Wine」と言えるこのMQA-CDは、「そうか!やってみよう!」という好奇心の仲間Samurai.Seiji氏と実験・検証し2017春に世界で初となるMQA-CD「A.Piazzolla by Strings and Oboe」が誕生しました。UNAMAS Labelは、基本パッケージをリリースしませんのでOTAVA-Recordsからそれ以降のUNAMAS Label作品もリリースされています。
2016-10 MQA-CD制作のブレストを行った時の思い出
2017-03世界初MQA-CDリリース記念
MQA-CDデコード時の表示(ver up前の機種なのでデコード表示は176.4KHz-16となっていますが実際は24bitです)
参考資料 1:StereophileMQA 私の友人でサラウンド仲間でもある伏木雅昭さんが翻訳したMQAの技術解説文がありますので参照してください。
参考資料 2: About MQA (Master Quality Authenticated)新デジタルコーディング方式 ‐ MQA (Master Quality Authenticated)Bob Stuart, Keith Howard 訳:鈴木 弘明(株式会社 ソナ)
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